2025-09-21

20250919 ボーイ・キルズ・ワールド:爆拳壊界流転掌列伝

 シネコンで開場時に「〇〇時から上映開始のボーイ・キルズ・ワールド ばくけんかいかいるてんしょうれつでん」と淡々とアナウンスされるのでちょっと笑ってしまった。
 ふざけた邦題だと思ったが、観てみると文字どおりの話だったから間違っていない。
 ゴア表現は実写版『モータルコンバット』より凄かったと思う。

 家族と聴覚と声を奪われた男の子が、自らをそのような境遇へと貶めた世界を殴り殺すまでの壮絶な復讐劇。主演はビル・スカルスガルド。身体も眼もバッキバキ。

 舞台は世襲独裁で腐敗しきったとある地域。この土地では予め用意されたリストをもとに連行した住民をなぶり殺しにするお祭りが年に一度開催される(生中継でスポンサーもついている)。
 このような土地で過去に深い傷を負った主人公を殺戮マシンに鍛え上げるのが、シャーマンと呼ばれる謎の男で、このシャーマンの強さが化け物じみている。
 演じたヤヤン・ルヒアンは『スカイライン-奪還-』とその続編でしか観たことがなかった。スカイラインも格好いいけどそれ以上だった。この人なら芝居の演出ではない場面でも人を殺せるのではないか、と思わされる。

 シャーマンによる特訓法はまさに地獄で、生き埋めといった復讐に必要か微妙なものや、粗末な食事、未成年の男の子に麻薬とおぼしき煙を吹き掛けるなど、良い師匠とは言いづらいものだった。
 成長した主人公も努力のすえ立派な肉体を披露してくれるが、そもそもトラウマが癒えないままなので、意識がボンヤリとしてる描写や幻覚・幻聴に苛まれる場面がちょいちょいある。亡くなったはずの妹が在りし日の姿のまま語りかけてくるところはどういう心理なのか、など、精神科の先生の見解も聞きたいところ。

 それから、ストイックな身体とアクションに幻覚・幻聴や周囲の人間のトチ狂ったキャラが合わさったドタバタ劇の一面もあり、ギャップが激しい。
 二転三転する展開、とくに後半の流れからは『アーガイル』を思いだした。私がよく知らないだけで、記憶にまつわる筋立ての定石みたいなものがあるのかもしれない。

 暴力描写だぜぇヒャッハー! と面白がる目的で観に来たのに、死体の数に若干引きかけたりもした。
 しかし、復讐の対象となった一家の長女(とその婿)や長男は、肝心なところに気づかなかった点から見ても救いようがない。父親の不在や母親の思想など複雑な家庭環境なのは想像できなくもないが、それでも母親に従い続けてきた彼らに情けをかける必要はないかなと思った。
 だいぶ残虐な方法ではあったが主人公が彼らに手を下す根拠はちゃんと描かれていたのではないか。

 この映画の主題は、いちおう、
「全体主義という地獄からの脱出」
を掲げている。

 過激な親殺しの物語だと思えば全然悪くない。
 私は大好きだ。



2025-09-15

20250912② ベスト・キッド:レジェンズ

 2人のレジェンドが師匠となって主人公を格闘技の試合で勝ち上がらせる話。
 全体的に主人公の男の子がパッとしないというか、影が薄いと感じた。

 予習ゼロで行ったら何も分からなくて参った。
 カンフーとミヤギ空手を動きから見分けることができない。
 格闘シーンが私には全部パルクールに見える…。
 武術の構えってもっと腰を落とすものだという勝手なイメージを抱いていたのもあって、何かみんな重心が高くて強そうには思えなかった。

 主人公はというと、まず表情がかたいのが気になった。
 体の動きもオーバーサイズのフード付きトレーナーのせいでキレがあるんだかないんだかよく分からない。
 兄を亡くしたトラウマがある割に、口が達者で女の子とすぐ打ち解けるコミュ強なキャラも、なんかいけ好かない。

 主人公が成長していく過程も分かりづらかった。
 この作品、前半で子どもが中年のオジサンを指導してロッキーみたいな事をするくだりがあって、そこは意外で面白いなとも思ったが、あそこに時間を割きすぎな気もする。
 この技を習得した、とか、何ができるようになった、って過程を、主人公ではなく中年のオジサンがほとんどやっちゃったから、主人公の見せ場である大技がドラゴンキック一つしかない。あのキック向けのユニークな特訓も一つだけしかなかった。

 主人公を鍛えた師匠2人の指導も船頭多くして何とやらで、お互い「こっちの技のほうがいい」「いやこっちのほうが」と張り合ってばかりいる。そこがこの映画の面白さなのかもしれないが、観てるほうはコレでちゃんと強くなれるの? と不安だった。


 主人公が強くなったかどうかよく分からないまま途中の試合をナレーションでばっさり省略して、ゲームみたいなルールをゲームみたいな画面で説明して(グランツーリスモとかF1みたいな見せ方)、最後の試合だけ白熱してると見せられましても…って感じだった。

 決勝戦は盛り上がったし、ライバル役がちゃんと練習して試合に臨むしスポーツマンシップもあったから、ライバル役のことももっと掘り下げてくれたらな…と思わずにいられなかった。

 メインで見せたいのが師匠2人ってのが露骨すぎて、いろいろと強引なところが引っ掛かる話だった。



2025-09-14

20250912① 8番出口

 主演俳優のかたは以前ご家族がプロとおぼしきカメラマンから無断撮影される被害にあいSNSで注意喚起したというネット記事を見たことがあるくらいで、自分にとってはどこか他人事だしよく知らなかった。

 鑑賞後に調べて初めて、ご結婚されていてお子さんがいらっしゃること以外のプロフィールを知った。ゲームに詳しい人ならたしかに適任だなあと納得。

 劇中では二十代後半くらいに見えたが同世代で驚いてしまった。


 原作ゲームは、地下鉄の通路に迷い込んだプレイヤーがルールに従い「進むか、引き返すか」を決めながらゴールの8番出口を目指す、というものらしい。 

 実写版では人生の岐路に立たされた一人の男の視点で話が進む。彼が非日常的な世界に放り込まれ、自分と向き合いながら「進むか、引き返すか」について、考え、答えを出す。

 原作ゲームの「プレイヤーがヘンテコな空間で迷いながら一つ一つ決めて進める」要素に、映画というか作り話全般の「主人公に転機が訪れてそれをどうにかして乗りこえる」基本の構造を落とし込んだところに、相性がいいと感じたし違和感なく観ることができた。


 ゲームやった事がないので想像だけど、実写版は深層心理を反映した精神世界みたいなものとしてあの地下通路が登場するが、原作ゲームでは物理的に存在するとか、解釈の違いはあるのかなと思った。

 主人公が冒頭、スマホで短文投稿サイトをスクロールさせている場面で出てきた耳ネズミ(バカンティマウス)っぽいのや自然災害の画像も、彼にとっては画面越しのデータにすぎず、他人事だった。電車内で起きた“お客様トラブル”もだし、別れ話が進んでいた彼女のことだってほとんど他人になりかけていた。

 そんな他人事が他人事じゃなくなって襲い掛かって来る。遠ざけたいものが自分事になるのほど恐ろしいものはなかっただろう。


 いちど謎の空間に放り込まれて自分と向き合うことになったところで、彼の問題がすべて解決したわけではないんだろう。

 それでもみんなと同じ他人事みたいな日常を求めず自分と向き合っていく、あえて初めからやり直すこと・息苦しさをともなうルートを選んだラストに、彼は強かったんだなと思えた。

 迷ったが観てよかった。


 90分くらいで短いのもいい。あれ以上長いとキツかったと思う。

 伸ばすとしたら、異変を増やすこともできただろうし、途中から消えてなくなる喘息要素や手荷物について補足もできたかもしれない。あのバッグ何処いったんだ。

 登場人物の過去の掘り下げで回想シーンを挟んだりもできなくはない。観客の層をどのように想定するかによっては、この映画は回想だらけになっていたかもしれない。

 そこを切り捨てて、中盤で「安直に救いを求めてるだけの人はどうなるか」を見せるに留めて、ほぼ地下通路で描ききっていたのは気持ちよかった。



2025-09-07

20250823 大長編 タローマン 万博大爆発

 昭和のちびっ子たちを熱狂させたという特撮番組を「本当にあった」気にさせる、とてもよく作りこまれた映像だった。マジで昔の作品の見知らぬリバイバル上映に迷い込んでしまったんじゃないかと戸惑うくらい。


 岡本太郎の絵画や立体造形が実写で動き回る異様さが際立っていた。

 ただ、意味不明さはテレビ版のが勝っていたと思う。

 映画版は“大長編”と銘打たれている通りちゃんとシナリオがある。タローマンの「でたらめ」も、ストーリーに沿った「意図のあるでたらめ」と言うのか、理性が働いていた。

 物語は面白かった。なんなら感動した。ストーリーの伏線や山場に感動したのであって、「でたらめ」そのものに感動したわけではない。

 実在したテイでいうなら、「当時の製作陣が駄目出しを食らってこのような形におさまりキレイにまとまっているが、実はもっとメチャクチャな終わり方をするディレクターズ・カット版が存在するのでは…」みたいに、ifで脳内補完するのがいいかもしれない。



20250816 ジュラシック・ワールド/復活の大地

 全体的に子ども向けかなと思った。
 獰猛な恐竜をおそれる映画というより、エイリアンとかホラー寄りで、存在じたいを怖がらせようとしているように見えた。

 そもそも誰も恐竜を恐がっていないところから始まる。
 浜辺に打ち上げられたクジラの死体みたいな扱いだし、パークも博物館も飽きられているという導入だし、一行の目的だって人間の病気を治す新薬開発のために恐竜の血液サンプルを採りに行くことだし。なんかずっとカネの話ばかりしていた気がする。

 劇中に登場する恐竜たちが図体のでかいやつがメインなのも物足りなかった。
 新規のデザインをお披露目するだけしてはいるが、人間と絡む場面が薄いと感じた。

 すばしっこいミドルサイズ(?)の恐竜に追いかけ回されるところなんかも、できれば見たかった。