上映時間70分のうち、最初にイントロダクションでキズナアイの来歴とVtuberの特徴についての解説がある。バーチャル世界の人形浄瑠璃かガチャピンのようなものだと理解した。
イントロダクションは体感10分弱くらいだったと思う。ファンの方ならこれまでの歴史、思い出を振り変えるのに良いのかもしれない。
V全般に疎くキズナアイのことも名前しか知らなかった自分には、こういう説明があるのはとても助かった。
逆に、バレエの白鳥の湖はいちおう知っている。舞台や映像上映で観たことがあり、話の筋や踊りの見どころ、代表的な曲がどの場面で使われているか、などは把握している。
現実のステージとデジタル表現との違いというか、できること・できないこと、あるいはデジタルの強みみたいなものを考えながら鑑賞して感じたことをまとめておきたい。
全体的には、初見でも分かりやすい見せ方になっていたと思う。
まず動きについてはプロのバレリーナが演じており、振付も特に変わったヴァリエーションではなかった。エンドクレジットで「中の人」のお名前も確認できる。
モーションキャプチャーで取り込まれているから骨組みの動きは正確だった。が、肩から指先までの美しさまでは再現しきれないのか違和感がある。生身の人間とデジタルの身体では筋肉の付き方が違うのだろう。あと手足がチュチュを突き破っているのが気になった。群舞も現状では厳しめだった。
映像は王子の一人称視点が新鮮だった。
鬱蒼とした森の中を進むとその先に小さな湖が見えて、といった目線の誘導があって没入感を高めようとしていた。お城でオディールから誘惑されている時にアングルに変化をつけて不穏な様子を表していたのも印象深い。
目で楽しむ部分は、オタクの人たちが慣れ親しんでいるアニメ的な演出に落とし込んでいるところが多かった。
それを踊りで表現するのがバレエだろう、と言われたらその通りなんだけど…現実の舞台は喋らないし、振付やマイムの意味だったり種々の「お約束」を予習してからでないと、どんな物語かも掴みづらい。バレエは映画やアニメみたいに気軽に観に行けないものって印象はある。
キズナアイのファンは大半が男性みたいだし、白鳥観るのも初めてかもしれない。ワケわからんとなるよりはと考えてああなったのだろうと思う。
さらに分かりやすさのためか進行役のナレーションまでいた。いま何をしているのかちゃんと説明がある。
音楽も、オリジナルのインストゥルメンタルも加えて感情の揺れ動きを表していた。
ただ、チャイコフスキーのスコアを使っている部分では、トゥシューズが床につく時のコンコンコンという音やダンサーの息遣いまで聞こえていた。おそらく公演かリハーサルなどをオーケストラピットの近くに設置したマイクで録音したものを使っているのだろう。
特殊なデバイスで観客の手のひらに乗せるといった演出もするならあの音はなかったほうがよかったかもしれない。
物語の改変は気にならなかった。
白鳥の湖を選んだのも分かるような気がする。
清楚系の儚い女の子が好きという目線と同時に、妖艶な女の誘惑に翻弄されたい欲もある。
一目惚れした女の子に愛を誓っておきながら、易々とほかの女に乗り換えてしまう。
オタクが特定の美少女キャラクターしか眼中にない様子と、王子がオデットに一目惚れして彼女一筋と舞い上がってる姿が、しっかり対応しているなと思えて面白かった。