2025-12-31

20251229 ボディビルダー

 字幕監修 BIG HIDE とか観るしかないやろ、ってずっと楽しみにしてきた作品だ。
 鑑賞前はステロイドの恐ろしさでも題材にしているのかなと思っていた。じっさい副作用の描写もあるにはあったが、どちらかと言えばいわゆる弱者男性の哀れな姿を切り取る要素が強かった。

 日本でいうところのなろう小説で作家を目指す何かパッとしないオタクみたいな人が主人公、だがアメリカなので、作家ではなくボディビルダーとして「何者かになりたい」をやっている陰キャの物語。
 しかし(本人的には)頑張っているが筋肉はデカくならない。いつからか分からないけど薬物にも手を出した、それでも結果が出ない。当然のように女の子からもモテない。せっかく食事に誘われてもロクにエスコートもできず自分の趣味の話ばかり…。社会人としてあるまじき勤務態度も見られ、あまりの痛々しさにめまいがしそうな描写のオンパレードだった。観ながら何度も「うわぁ…」と思った。
 あげくの果てには憧れていた白人男性からのあの扱い。

 それでもホアキンジョーカーみたいに壊れきることもできず、夢に固執したまま映画は終わってしまう。すごいバッドエンドだった。

 でも無事に公開されてよかったと思う。アメリカ人って何だかんだ皆イケイケなイメージあったから、あの国にもああいう感じの人がいるっていうのが面白かった。



20251227② SWAN LAKE〜starring KizunaAI

 上映時間70分のうち、最初にイントロダクションでキズナアイの来歴とVtuberの特徴についての解説がある。バーチャル世界の人形浄瑠璃かガチャピンのようなものだと理解した。
 イントロダクションは体感10分弱くらいだったと思う。ファンの方ならこれまでの歴史、思い出を振り変えるのに良いのかもしれない。
 V全般に疎くキズナアイのことも名前しか知らなかった自分には、こういう説明があるのはとても助かった。
 

 逆に、バレエの白鳥の湖はいちおう知っている。舞台や映像上映で観たことがあり、話の筋や踊りの見どころ、代表的な曲がどの場面で使われているか、などは把握している。
 現実のステージとデジタル表現との違いというか、できること・できないこと、あるいはデジタルの強みみたいなものを考えながら鑑賞して感じたことをまとめておきたい。

 全体的には、初見でも分かりやすい見せ方になっていたと思う。

 まず動きについてはプロのバレリーナが演じており、振付も特に変わったヴァリエーションではなかった。エンドクレジットで「中の人」のお名前も確認できる。
 モーションキャプチャーで取り込まれているから骨組みの動きは正確だった。が、肩から指先までの美しさまでは再現しきれないのか違和感がある。生身の人間とデジタルの身体では筋肉の付き方が違うのだろう。あと手足がチュチュを突き破っているのが気になった。群舞も現状では厳しめだった。

 映像は王子の一人称視点が新鮮だった。
 鬱蒼とした森の中を進むとその先に小さな湖が見えて、といった目線の誘導があって没入感を高めようとしていた。お城でオディールから誘惑されている時にアングルに変化をつけて不穏な様子を表していたのも印象深い。

 目で楽しむ部分は、オタクの人たちが慣れ親しんでいるアニメ的な演出に落とし込んでいるところが多かった。
 それを踊りで表現するのがバレエだろう、と言われたらその通りなんだけど…現実の舞台は喋らないし、振付やマイムの意味だったり種々の「お約束」を予習してからでないと、どんな物語かも掴みづらい。バレエは映画やアニメみたいに気軽に観に行けないものって印象はある。
 キズナアイのファンは大半が男性みたいだし、白鳥観るのも初めてかもしれない。ワケわからんとなるよりはと考えてああなったのだろうと思う。

 さらに分かりやすさのためか進行役のナレーションまでいた。いま何をしているのかちゃんと説明がある。

 音楽も、オリジナルのインストゥルメンタルも加えて感情の揺れ動きを表していた。
 ただ、チャイコフスキーのスコアを使っている部分では、トゥシューズが床につく時のコンコンコンという音やダンサーの息遣いまで聞こえていた。おそらく公演かリハーサルなどをオーケストラピットの近くに設置したマイクで録音したものを使っているのだろう。
 特殊なデバイスで観客の手のひらに乗せるといった演出もするならあの音はなかったほうがよかったかもしれない。

 物語の改変は気にならなかった。
 白鳥の湖を選んだのも分かるような気がする。
 清楚系の儚い女の子が好きという目線と同時に、妖艶な女の誘惑に翻弄されたい欲もある。
 一目惚れした女の子に愛を誓っておきながら、易々とほかの女に乗り換えてしまう。
 オタクが特定の美少女キャラクターしか眼中にない様子と、王子がオデットに一目惚れして彼女一筋と舞い上がってる姿が、しっかり対応しているなと思えて面白かった。


20251227① ワールド・オブ・ハンス・ジマー:新次元へ

 元のスコア通りに演奏するのではなくコンサート向けに編曲がされている。
 未見の作品のものはコンサートとして楽しむことができた。  作品を観たことがあったり原曲を知っていたりすると、アレンジの仕方が気になってしまう。好き嫌いは別れるかもしれない。

 ステージ後方の壁はモニターになっていて、時どき作品の映像も流れたりする。ただし曲によってあったり無かったりで、映像がないやつは脳内で補完するしかなかった。

 編曲されたことで楽器の種類が多いのは見応えがある。でもそれぞれの楽器のスペシャリストを呼んでいるわけではなく、金管と笛を両方やるとか、キーボード兼アコーディオンといった兼任でまかなわれている。チェリストの方などは日本人というだけで三味線まで弾いてて大変そうだった。
 それだけ飽きさせないように色んな事をしていたと思う。

 しかし編曲を担当したのは一人だから、盛り盛りアレンジも二時間強もあると麻痺してしまった。聴いてて途中ちょっとダレてしまうところはあった。140分はやや長い。



20251226 プラハの春 不屈のラジオ報道

 60年代後半〜70年ぐらいのチェコスロヴァキアで暮らす若い兄弟が、当時の情勢に巻き込まれていく話。

 お兄ちゃんは国が左右どちらだろうが弟が助かればいいって感じで、凄い弟思いというか、ここぞというところで過保護を発揮することで話が動いてくのが面白かった。
 たまたまラジオ局の偉い人の目にとまって裏方として雇われることに…っていう、“友達に誘われてオーディションに行ったら自分だけ受かってしまった”みたいなことになっても、新しい環境で反体制のカリスマみたいな強い信念を抱いて働くジャーナリストたちと出会っても、素敵な女性と関わりを持つことになっても、結局なんだかんだ弟が勝っちゃう。

 お兄ちゃんのほうが印象に残ったが、話のメインはラジオ局の報道員だ。

 後半でワルシャワ条約機構が侵攻してくる。派手なドンパチはなくても絶望的な気持ちにさせられる絵づらだった。
 戦車と大量の兵士が近づいてくるなかラジオを繋ぎ続けて言葉を一つ一つ発していく様子は、まさに命懸けだった。



20251221 ペリリュー -楽園のゲルニカ-

 原作漫画まで読む余裕がなかった。
 何も知らないままなのもどうかと思い、手持ちの積み本からペリリュー戦について書かれている書籍で予習してから鑑賞にのぞんだ。

 主人公はお国のために働くということがどこかピンと来てないような、絵を描くのが好きな(物事を素直に見つめる視点の持ち主の)若者。
 先の大戦の映画といえば、バンザイ突撃みたいな「りっぱな死」か、現代人の目線で見て「ホラやっぱり戦うべきじゃなかったんだよ」って反省するか、このどちらかみたいなイメージだった。
 何にも染まってない子の視点を通して観るのは新鮮だった。ちょうどいいキャラクターだったと思う。

 登場する日本兵たちは日本からの補給が途絶えてしまった島で、米軍の基地から糧食などを盗みだしてそれを食べてなんとか生き延びてきた。飢えや病気で判断力を失っていない人だからこその、生きてどう敗戦を受けとめるかの葛藤が印象的だった。

 事前に読んだ本は「骨が語る兵士の最期」(筑摩選書)と、「日本軍と日本兵」(講談社現代新書)の二冊だけだが、引き続きいろいろ読んでみたいと思っている。