戦場カメラマン版プラダを着た悪魔とでも言えばいいだろうか。
若い女の子に都合のいいサクセス・ストーリーだった。
イマドキの若い子、どんな状況でも、たとえ自国で内戦が勃発しても、とりあえずカメラ持ってれば何でも撮りたがりそうな気はする。
何が言いたいのかさっぱり分からなかった。鑑賞後にレビューサイトに頼ってようやく内容を理解した。
事前に予習したことなんて、アメリカは軍と州兵が別ものであることと、州兵の中ではカリフォルニアとテキサスの規模が大きいことの二つだけだった。それなら内戦ってシチュエーションも人やモノには現実味があるのかな、なんて呑気に構えていたが、むしろアメリカの歴史や現代の情勢をちょっとでもニュースで見といたほうがよかったかもしれない。
以下は、ほぼ前情報なしで観た当初の感想。
見せたいショットの数々が先にあり、それを繋いで一本の映画に仕立てようとしてロードムービー形式になったんだろうと思った。
同じアメリカ人同士で争う姿を限りなくショッキングに描きたい意図がある、と。
しかし内戦中に何らかのゴール地点をめざして国内各地を転々と長距離移動できる(ガソリンや食べ物を調達できる財源をもつ)一般人は限られる。
→ロイターのベテランカメラマンが登場。
言うてベテランはベテランで危険な地域に慣れているから、それが国内で起きても見慣れた風景ならスルーしそう。ベテランではせっかく思い描いた場面に遭遇しない可能性が。
→普通の人をやむを得ず乗せるのはどうか。その人の目をとおせば(ついでにひどくショックを受けてもらえば)凄惨な場面も際立つのでは。
でもそんな状況下で普通の人は自分の身を守るのが精一杯で、同乗させても車からは一歩も出てこないだろう。
→ならば好奇心旺盛な人が自らの意思で乗ったことにしよう。
好奇心旺盛な人といえばYouTuberやインフルエンサーがいるが、ロイター相手に掛け合ったところで門前払いを食らいそう。
→業界経験のないカメラマン志望の若者ならどうでしょう。
…とか、そんなところじゃないだろうか。
それで加わったであろう、『エイリアン ロムルス』で主役をやり遂げたケイリー・スピーニー演じるジェシーが、とにかく浮いてしまっていた。
戦場カメラマンへの憧れだけでそのテの仕事は全く未経験くさい若い女の子がベテランクルー達について来てしまう。
この“未経験”って部分に無理があるのは書き手も内心思っていたのか、「足の悪い肥満男性も同行できてるし…」「ジェシーがついて来る事を承諾したクルーの男性が、彼女と話していた時は泥酔していたし…」とちょいちょい言い訳が挟まる。
ジェシーは戦場カメラマンになりたいとは言うが調べ物はWikipediaで済ませるタイプらしく、有事や紛争地帯などへの知識も薄そう。
それに自分の身を守る術も知らなければ危機感もない。
この子が、また、話の都合上あぶなっかしい行動ばかり取る。
・見たいものがあるからとクルー達から一人で離れ、背後から知らない男が近づいてきてもまるで警戒しない。
・後ろから服を掴まれ「それ以上出たら危ない」と引っ張られてるのにしょっちゅう飛び出そうとする。
・軽率な行動をとってクルー全員を命の危機にさらす。
・道中とくに意味もなくゲロを吐く。
・カメラを構えることに夢中になりすぎて、兵士から「伏せてろ」「下がれ」と度々忠告される。
…それでいて、ショッキングな場面に遭遇すると涙目で震えあがりオロオロする。この演技がだいぶ大袈裟でほとんど十代の少女にしか見えない。
判断力がアレ過ぎるしずいぶん若い子なのかな? と思っていたら本人の口から23歳と言っててズッこけてしまった。
そんなジェシーに職業体験をさせつつお守りもしなければならなかったベテランクルー達が気の毒でならない。
ジェシーがホンモノの紛争を目の当たりにしてショックを受けるのは自然な反応だと思う。演技がオーバーなのはともかく。ただ、話を動かす役割も兼ねたジェシーの動かし方が、全体を通してバカっぽい。「なんだこの子は」と呆れてしまった。
でも、まあ、こういう無理がある話って、国内の作品でもあるよなあーとも思う。
もしかして、芸能事務所からのゴリ押しでこっちをメインにしろと押し切られてこんな話になっちゃったんじゃないか? あるいは、ケイリー・スピーニーが気に入られ過ぎて台本のオチまで差し替えたんじゃないか? とまで疑いたくなった。
それでも撮らずにいられないカメラマンの業を背負ってしまったといえば矛盾はないのだけど、にしたって途中の話が雑すぎた。
いっそのことジェシーは赤グラサンニキの所で退場していただき、最後はベテランの女性カメラマンに軍配が上がる形になって欲しかった。
ジェシーのこれまでの行動を振り返ると、若いカメラマンの覚悟や成長というふうにはとても見えなくて、オチが強引としか思えなくて…。
「若い女の子に都合がいいだけの話」に見えちゃってしょうがなかった。
アメリカの若者が映画館で紛争のおそろしさを知るのにちょうどいいアトラクション、ぐらい割り切って観るのがいいのではないか。